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法曹世界の珍道中 第4章 訟務への復帰

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法曹世界の珍道中 第4章 訟務への復帰

法曹世界の珍道中 第4章 訟務への復帰

2024/11/29

 仙台法務局の訟務部は部長が私の他,裁判官出身の訟務検事二名,検察官出身の訟務検事一名,法務局出身の訟務管理官,上席訟務官,訟務官,事務官という構成である。なお,訟務官の中には国税局からの出向者が一名いる。
     部屋を見渡した印象は若者が少ないなであった。しかも,何となく覇気がない。
     訟務はかつて法務局の「気違い島」と呼ばれていた時代があった。普通の人ではない,狂人のように異常に優秀過ぎる人達が集まる部署という意味である。専門官制となる前は,飛びきり優秀な若手を事務官として訟務に集めていた時のことである。
     しかし,専門官制になると,そのポストに相応しい号俸が高い年輩の者を集める必要がある。優秀な若手だけ集めるというわけにはいかなくなる。
     確かに,訟務は難しいとされている部署だけに,それなりに優秀な人が配置はされている。だが,出世コースのファーストクラスからは落ちこぼれた二番手集団という雰囲気がある。それが覇気をなくさせているのだ。これを変えるにはどうすれば良いのか。
     法務局の中での訟務は,特殊であり,外人部屋というイメージが強い。局議でも訟務の問題が議題となることはほとんどない。訟務が法務局の中で重要な位置づけを持つには,その役割を抜本的に見直す必要がある。そこで,私は,訟務を法務局の「人材育成機関」として位置づけることにした。
     当時は,公務員の意識改革が急務とされていた。そこで,公務員の意識改革,危機意識と法務局の未来などのテーマで,法務局を取り巻く危険な現状と意識改革の必要性を訴える職場研修を東北管内の地方法務局,支局などで次々と行った。部長だけに任せておけないということで,訟務検事や上席訟務官も登記国賠などのテーマであちこちで講演して回った。一年で合計約七〇箇所の法務局,支局で研修を行った。これで,訟務とは職場研修における「人材育成機関」という位置づけが定着していった。
     訟務の内部研修も改革した。従前は,全時間,訟務における法律問題,事実問題を研修していた。内部研修の時間のうち,半分は同様の研修をしたが,半分は,上席訟務官以上については法務局全体の問題,必要な改革,危機への対応等の議論にあて,その時間は,法務局の局長,人事権を持つ民行部長に出席していただいた。若手の訟務官以下の研修については,法務局全体に関するテーマ(例えば,法務局に公法上の筆界についての査定官を置くべきかなど)について,肯定側・否定側に分かれてディベートする。午前,午後に分け,正反対の立場から議論を展開する。肯定側,否定側の両方の立場でいずれも勝たないと優勝はできない。これにも,局長,民行部長に出席していただいた。
     局長会同や会計課長会同など,法務局全体に関する会議があれば,訟務内部で徹底的に議論し,訟務部としての意見を必ず提出する。もちろん,訟務に関するテーマではない。毎回,局の意見として出すものの半数は訟務部が提出した意見であった。
     こんなことをしていると訟務事件の処理がおろそかになるのではないかを危惧する声もあったが,職員には「事件処理の責任は,報告・相談を受けたうえでの判断であれば,最終的には部長がとる。皆さんは,仕事は一生懸命していただきたい。だが,訟務で覚えて欲しい能力は判例や準備書面の書き方ではない。」,「身につけてもらいたいのは,よく調べ,よく考え,よく論じ,よく書く能力だ。」,「訟務を出てから,あの人はよく調べてある,よく考えている,しゃべらせると説得力がある,書かせると凄く立派な文章を書く,こう言われて欲しい。この四つの能力があれば,どこに行ってもあの人は優秀だと言われることになる」。これを毎回の会議で,離任するまで言い続けた。
     訟務は法務局の人材育成機関であるという位置づけは,法務局の中でも定着していき,訟務の人材が良いポストに栄転していき,また,後任者も優秀な人が入ってくるという,好ましい人事の流れになっていった。
     事務方の№一は訟務管理官であるが,私が一緒に仕事をした四名の訟務管理官は全て地方法務局の局長になっていった。

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